大学中退公務員の独り言

映画を中心に、考えたことを気ままに書いています。

足を踏んだ人と踏まれた人の話

 先日、本屋で気になる帯の本を見つけた。おそらく哲学書の類だったと思うが、おおよそ次のようなことが記されていた。「足を踏んだ人と踏まれた人がいる。足を踏まれた方は痛いから、踏んだ人に抗議する。ただ、今の時代、周りにいる、足を踏んだ人と踏まれた人以外の大多数の人まで、踏んだ人を攻撃している。」


 以前、職場の同僚に相談を受けたことがある。どうやら夫が会社の後輩と浮気したらしい。ずっと子どもが欲しいと思っていたが、今はそのような行為をする気が起きない。浮気も今回が初めてではなかったので、別れようか本気で悩んでいるようだった。


 そこまではよくある話だ。ただ、そのころから職場の女性陣の間で彼女に関する噂が広まった。どうやら旦那と上手くいってないらしい。Aさんと再婚するらしい。等々。(以前から彼女と職場の先輩であるAさんの関係が疑われていた。ちなみにAさんも既婚者である。)


彼女自身は裏表のない、はっきりとした性格で必要以上に人と群れることがなかった。また、男女関係なく人との距離が近いこともあり、そのようなところが妬みを招いていたのかもしれない。いつしか彼女に関する根も葉もない噂まで出てきた。僕に相談してきた時には相当まいっていたように思う。


先日昼休みに彼女とランチを食べた。表情にすっかり明るさが戻っている。夫のハワイ転勤が決まったという。彼女自身がイギリスで育った帰国子女ということもあり、結婚当初から海外で生活したいと常に話していた。夫に対する怒りや悲しみもすっかり抜けたとうれしそうだった。


あまりにもあっけない立ち直り方にその時の僕は少し驚いたのだけど、意外とそんなものなのだ。生きているといろいろなことがある。ただ、少なくともそれが個人的な問題である限り、周囲の人間は無闇に立ち入るべきではない。足を踏んだ人と踏まれた人が修復不可能になるまで踏んだ人を追い込まなくても、案外あっけなく物事は解決することもあるのだ。